ふと思いついたのでショートストーリーを書いてみました。
 ・9/6(日)最後があっさりしすぎていたのに気づき、少し肉付けしました。
馬鹿な男の話。


あるところに馬鹿な男がいました。
その男は、馬鹿なりに夢を持っていました。
ごく一般的な家庭を持ちたいという夢です。


それは、当然ながら一人ではかなえられない夢なのでした。


馬鹿な男は、馬鹿なりに自分を評価してみました。
頭は、馬鹿なので悪い。容姿は、太っていて見られたものではない。
性格は、周りから優しいと言われるがそう見られたいだけなので、本当に優しいとは思えない。
これでは、とても彼女など作れそうもありません。


しかし、年を重ねるにつれ馬鹿な男にもそういう欲求が沸いてきます。
当然のように、好きな女の子もできます。
馬鹿な男は、まず段階を踏むべきだと考え、好きな女の子とゲームをしてみようと考えました。馬鹿な男は、その女の子の紹介でファンタジーな小説を知り、TRPGと呼ばれるゲームを知ったからです。


TRPGに誘ってみると、その女の子は馬鹿な男の部屋に遊びに来てくれました。
しかし、TRPGという遊びは二人でできるものでは無かったので、ほかの男友達も必要でした。
そして、そういったグループで遊んでいると、そのうち男友達が馬鹿な男が好きな女の子が魅力的だと言い出しました。


馬鹿な男は悩みました。その男友達は、馬鹿な男にとって親友と言えたからです。
馬鹿な男は、自分自身と男友達を比較してみました。
頭はそんなに違いありません。性格は悪くありません。
容姿は、男友達の方がやせており自分からみても、悪いようには見えません。


馬鹿な男は決心しました。
ある日、男友達が馬鹿な男の好きな女の子に、告白したいと相談してきました。
馬鹿な男は、その願いを叶えてやるため好きな女の子を電話で呼び出し、その男友達が告白できる環境を作ってあげました。


馬鹿な男はあきらめていたのです。
残念ながら男友達の告白はかないませんでした。そして、馬鹿な男は好きな女の子との友好関係も失ってしまいました。


馬鹿な男は何故そうなったのか理解できませんでした。
好きな女の子に最後に言われた言葉は、「女の子として見てくれていない」でした。
馬鹿な男は、その言葉に対していかに好きな女の子の事を魅力的に見ていたか、抱きたいと思うとか余計な事まで口走っていたのです。


馬鹿な男は、好きな女の子を失いました。
けれど、それは彼にそれほどのショックを与えませんでした。
何故なら、馬鹿な男にはそれが当たり前と受け取れたからです。


それから時を経て、馬鹿な男はTRPGにはまっていきました。
そのうち、馬鹿な男は女性プレイヤーをほしいと考えるようになりました。
馬鹿な男は、かつて仲の良かった女の子の事を思い出し誘ってみました。
最初、予想していたよりもすんなりと、その女の子は一緒に遊んでくれました。


そのうち、馬鹿な男は普通に卒業し就職しました
馬鹿な男は、郷里を離れ上京する事になりました。
上京しても、頻繁にでは無いにしろその女の子と連絡をとっていました。


ある時、馬鹿な男はその女の子が東京へ遊びに行きたいことを知りました。
既にその女の子へ好意を抱いていた馬鹿な男は、自分の部屋をその女の子の宿にしないかと提案しました。
ほんの1泊2日を、その女の子は馬鹿な男にお世話になりました。


残念ながら仕事の予定が入ってしまった馬鹿な男は、その女の子と一晩過ごすことはかないませんでした。
しかし、言うなら今しかないと告白をしました。
その女の子の返事は、「貴方をそういう風には見ることができない」というものでした。
そして、その女の子が男嫌いであり、過去に酷い失恋をしたという事を聞きました。


馬鹿な男は、脈が無いことも理解せず、もしかしたら将来的には良い関係になれるかもと期待し友達付き合いを続ける事にしました。


ある日、馬鹿な男はパソコン通信というものを知りました。
そして、さも当然のように馬鹿な男はパソコン通信へどっぷりとはまっていったのです。
ある事がきっかけて、馬鹿な男はパソコン通信でチャットしている相手と仲良くなり、電話連絡をとるようになりました。


その相手から、ある時電話で彼氏と別れたという話を聞きました。
それから何度か電話で話を続けるうちに、お互い好きと言いだしたのです。


しかし、重大な問題が一つありました。
それは、お互いがお互いの顔を知らなかったのです。
電話だけが繋ぐ交際は、半年以上続きました。


馬鹿な男は、さすがに顔を合わせない交際に疑問をもっていました。
会いたいといっても相手には避けられてばかりだったからです。
そのうち、パソコン通信のオフ会が企画され、そこで二人初顔合わせをしようと話し合いました。
けれど、結局その相手は顔を出さなかったのです。


それからも電話だけの交際は続きます。
馬鹿な男は、相手から店の前から中の様子だけ見て帰ってしまったと聞きました。
それを、馬鹿な男は相手が自分の外見を見て、これはないわーと思ったのだと理解しました。
それからも、電話だけの交際が続きますが、破局は簡単にきました。
それは電話口でいつものように話をしようとしたら、相手の背後から男の声が聞こえたからでした。
その男は「聞かせてやれよ」といい、電話口で相手のあえぎ声を馬鹿な男に聞かせてやりました。
それからしばらくして、相手からは「結婚するから」という連絡が来ました。


馬鹿な男は、遊ばれていただけだという事をやっと知りました。


それから数年、馬鹿な男と交流を持つ女性は、かつての女の子だけでした。
電話口での会話だけではなく、簡単なEメールでのやりとりもありました。
馬鹿な男は今度こそはという期待を持っていました。


馬鹿な男は、かつての女の子が自分に好意等持っていないことを心の中では理解していましたが、誕生日プレゼントのやりとりや、電話でのやりとりで少しは好意を持たれているのではと勘違いしていたからです。


馬鹿な男は、「太っているから嫌」と断られました。
馬鹿な男は、馬鹿なりに自分を再評価してみました。
頭は、馬鹿なので悪い。容姿は、太っていて見られたものではない。
性格は、周りから優しいと言われるがそう見られたいだけなので、本当に優しいとは思えない。


馬鹿な男は思いました。
「これでは断られても当然だ」
馬鹿な男は、かつて思った夢は実現できないからこそ夢なのだと悟りました。
現実は、当然のように厳しく自分で評価した結果が正しかった事を、馬鹿な男は理解しました。


馬鹿な男は、これから先の事を考えてみました。
女性に相手にはされないので、この先一人で生きていく事を前提としなければなりません。


馬鹿な男は、悩みました。
生きていく必要があるのだろうか?


馬鹿な男は、はたと気づきました。
馬鹿なんだから考えてもしかたない。


馬鹿な男は、馬鹿なりにただ生きていくしかないのでした。


おしまい。